竜騎士伝説

Dragon Knight Saga

第7章 再会の刻 その3

 ヤンとクレア、それにキリアーノの三人はミトスの門をくぐった。
 クレアが加勢してからの形勢は一方的だった。あのオークの一団が壊滅するまで、ものの十分もかからなかったのである。
 キリアーノは、あまりにも早くかたがついてしまったのが残念であった。が、クレアがヤンの知り合いだと知って、すぐに機嫌を取り戻した。
 三人は旅篭屋に入ると、角のテーブルに腰を下ろした。しばらくして、ウェイトレスが注文の酒を運んできた後、さっそくクレアはヤンとキリアーノにフィルセルナから聞いた話を話した。
 それはヤンにとっても驚くべき内容だった。
「何だって! じゃぁ、おれたちが…?」
「そうみたいね」
 クレアは、エールの入ったカップを片手でもてあそびながらヤンに答えた。
「でも…」
「あたしだって、いきなりそんな話信じられないわよ。…あの黒騎士に会わなければね。あの時、あいつは間違いなくあたしを狙ってた。どうしてだと思う? 今までに、会ったこともないのよ」
 クレアの話はもっともだった。それに、ヤンにも思いあたる節がある。
「そういえば、あの…ドゥルガだっけ? なぜ、おれの名前を知っていたんだろ…?」
 ドゥルガが消える間際に残した言葉がよみがえる。そして、もっと大切なことも…。
「そうだ! レキュルだよ。ドゥルガがレキュルのことをサロアって呼んでいたんだ。自分はサロア様の配下だってね…」
「レキュルって…どういうこと?」
 クレアが尋ね返す。ヤンは詳しい話を話した。
「まさかその話、本気にしてるんじゃないでしょうね?」
「おれだって最初はそう思ったさ。でも、今の話を聞いた後じゃ、あながちそうとも言えないぜ」
「そんな、レキュルが…なんて信じられるわけないじゃない!」
「…あの…」
 今まで黙っていたキリアーノが、おずおずと口を開いた。
「その神殿の四人っていうのは、クレアさんとヤンさんとレキュルさん…ですよね? じゃあ、もう一人は誰なんですか?」
「そうか、キリアーノには話してなかったっけ?」
 そう答えて、ヤンはにやりと笑った。
「もう一人の名ははジュヴナント・クルス。育ちのよさそうな戦士さ。今頃どこをほっつき歩いてるんだか…」

「…エイリアムがその四人の一人だったとはね」
 エールを飲み干しながら、ヤンは呟いた。
 そういうことなら、あの『エイリアムの遺産』も説明がつく。もし、生きて戻ってきたのならば、魔王を倒すことができたということだ。そんな武器などは必要がなくなる。そして、自分たちが魔王の前に倒れたのならば、伝説の武器・防具を残すことによって、望みを後世に託すことができる。
 ヤンには、自分がその『エイリアムの遺産』を見つけたことが、ただの偶然には思えなかった。
『エイリアムの遺産』だけではない。精霊神の贈り物という水の首飾りと大地の腕輪。そもそも精霊神とは? ヤンにもクレアにも分からないことが多過ぎた。
「とにかく、ジュヴナントとレキュルをさがさないとね。彼らにも早くこの話を聞かせないと」
 そう言って、クレアは席を立った。ヤンとキリアーノも後に続く。
「で、どこへ行くつもりなんだ?」
 ヤンが、街の通りを行く道すがら尋ねる。
「あたしは、まず師匠様をさがすつもり。あなたはどうするの?」
「そうだな…、とりあえず黒がね連山に戻るとするか。『エイリアムの遺産』も気になるしね」
 そう言って、ヤンはキリアーノを見た。
 キリアーノが嬉しそうに頷く。彼にも、長い間会っていない仲間が懐かしい。
「いいわ。あたしも、ギリアまでいっしょに行くわ。…何か分かるかもしれないしね」


「ここにいたのか、グヮモン」
 大きな体を揺すりながら、ドゥルガが薄暗い神殿の奥に入ってきた。相変わらず、皮の鎧に身を包み、腰に大きな鋼鉄製の斧を下げている。
 白の神官服に身を包んだ異形の祭司グヮモンは、そんなドゥルガを一瞥した。
「何の用だ? ここに勝手に入ってくるのは禁止しているはずだぞ?」
「そう言うな。今日はおもしろい話を持ってきたんだからな」
 そう言って、ドゥルガはにやにやと笑った。
「用があるなら、さっさと言ったらどうだ?」
 グヮモンは不快そうな顔をドゥルガに向ける。
「がっはっはっは。こいつはいい。いい加減なものを作るわりには、偉そうなことを言うとはな」
「…どういうことだ?」
 その言葉には明らかに怒りが込められていた。
 ドゥルガには、余計にそれがおかしかった。
「そう怒るな、グヮモン。あのドワーフに送った斧だ。その宝石が破壊された」
「何だと! そんなはずはないっ!」
「ふっ、おまえに嘘をついてどうなるのだ?」
「…」
 グヮモンが言葉につまる。ドゥルガがにやりと笑った。
「確か、ヤンとかいう男だ。おまえがあの神殿で見たやつらの一人だったな?」
 体をぶるぶると震わせながら、グヮモンは無言でドゥルガの話を聞いていた。
「がっはっはっは。まぁ、気にしないことだ。誰にでも失敗ってものはあるさ。もっとも、これからはドワーフから武器を手に入れることができなくなるがな。がっはっはっはっは…」
 大きな笑い声を残して、ドゥルガは薄暗い奥の間を出ていった。
「…ドゥルガめ! …しかし、あの宝石が破壊されただと…? 手を打たねばならんか…」
 暗闇の中で、グヮモンは呟いた。忠実な部下を呼ばねばなるまい。

- つづく -