宇宙船へろへろ号の航海日誌

第1話

 ようこそ、宇宙船へろへろ号へ。

 と言っても、皆さんにはなんのことやら分からないでしょうから、私が説明しますね。
へろへろ号というのは、今私たちが乗っている宇宙船の名前。え、嘘だろって? 本当だよ。船体の横にちゃんと赤で「HERO-HERO」って書いてあったもん。名前は変だけど、これでもれっきとした最新の光子力宇宙船なの。長さは、たぶん50メートル位。というのも、最近外から見る機会がないもんで…。
 でもね、聞いて聞いて。船体はとっても綺麗な純白。輝くような白っていうのはこういうのを言うんだろうね。いやぁ、最初に見たときは感動したよ。へへぇ、いいでしょ? そんでもって、…そうそうこの船はAI搭載、だからナビのあたしとしては楽で楽で。あとは、船が自分で判断して行き先決めてくれると完璧なんだけどね。

 そんじゃ、次は乗組員の紹介といきますか。
 まずは船長。ひときわ高いところで、でんと座って…いないなぁ…。いつも床にござをひいて、その上に正座して、のんきに湯飲みでお茶なんかを飲んでいる。…うーむ。
 つ…次いきましょう。次は、機関士のコンさん。えっと、コンさんは…と…? あ…、またコンソールパネルに突っ伏して寝てるぅー。まったく、食べてすぐ寝るから太るんだよ。
 操縦士のユウさんは? おろ、ぶつぶつ独り言を言いながらもしっかり仕事してる。いやぁ、乗組員の鏡ですな。たしか、彼が一番年齢低かったよね。気が弱いもんで、いつもベンさんにいじめられているけど。
 でもって、そのベンさん。通信士です。しかし、通信士の仕事をまともにしているのを見たことがない。もっとも、こんな宇宙の果てまで電話をかけてくる物好きなんていないけどね。電話代だけでもばかにならないし…。ねぇ?
 最後は、私。チコって言いま~す。さっきも書いたとおりナビをやってます。ただ今、花のハ・タ・チ。
ベン「…おい!」
 容姿端麗。愛くるしい笑顔に、目もとのほくろがチャームポイント。
ベン「おい!!」
 ただ今恋人募集ちゅ…
 ボカッ!
チコ「い、いったぁーい。何するのよ!」
ベン「おめえは、さっきから見てればなんだぁ? 嘘を書くんじゃねぇ!」
チコ「嘘なんか書いてないわよ!」
ベン「ほほぉー。じゃぁ誰が花のハタチだって?」
チコ「ううっ…、そ、それはぁ…、言葉のあやってやつで…。ほら、切り捨てればさぁ…」
ベン「おめえ、自分で書いててはずかしくないか?」
チコ「…」
 …そこまで言わなくてもいいでしょぉーっ。

ユウ「…せ、船長…」
船長「…」
ユウ「…船長…」
船長「…ずずず」
ユウ「…船長?」
 船長は、お茶に夢中で聞こえていないもよう。
ベン「だぁーっ。ユウ、じれってえな。おまえ、男だろう、もとでかい声でないのかぁ?」
チコ「あんたはでかすぎるのよ」
ベン「何か言ったかぁ?」
チコ「べっつにぃ」
ベン「ユウ、とにかく、何だ。もっと大きな声をだせ! 分かったか?」
 あ、無視したなぁ、こいつ…。
ユウ「あ、あの…」
ベン「何か文句でもあんのか?」
ユウ「い、いや、別にそういうわけじゃ…」
ベン「んじゃ、何だよ?」
ユウ「さ…さっきから、ディスプレイに、なんかこう…円盤のようなものがたくさん映っているんですけど…」
一同「何ぃーっ!?」
 確かに、ディスプレイにそれらしい物がう映っている。私が拡大してみると、やっぱりUFOの大群だった。へろへろ号、出航以来の大ピーンチ!
ベン「おまえ、そういうことは、さっさと言えよな!」
ユウ「だからさっきから言ってたじゃないですか…」
チコ「ベン、あんたが邪魔したんじゃなかったっけ?」
ベン「う…。船長、どうしましょう?」
 立場が悪くなるとすぐこれだ。まったく調子のいいやつめ。
船長「うーむ…」
チコ「船長?」
船長「うむ、…やっぱりお茶は、宇治茶じゃ。チコくん、そうは思わんかね?」
チコ「い、今はそれどころじゃないんじゃ…」
船長「ということは何か? 君は宇治茶より玄米茶の方がいいと…」
チコ「だから、そうじゃなくって…。船長!」
船長「…まったく近頃の若いもんときたら…。ぶつぶつ…ずずず…」
 あーあ、またお茶をすすり始めちゃった。
 誰だぁ、こいつを船長にしたの?
ベン「ふっ、ここはおれの出番のようだな」
チコ「あんたでも仕事するんだ?」
 まぁ、通信士は、こんな時しか仕事無いんだろうなぁ…。
ベン「ふっ…、まぁ、まかせとけって。ミサイルたっぷりおみまいしてやる」
チコ「ぶっ! …な、何考えてるのよ? あんた戦争でも起こす気?」
ベン「別に。さっさと全滅させちゃえばいいんだろ?」
チコ「そういう問題じゃないでしょ!」
 私は、おもいっきり睨んでやった。
ベン「…ちぇっ、しょうがねえな。じゃ、4・5発で我慢しとくか…」
チコ「…ベ…ー…ン…ー…」
ベン「わ、分かったから、その恐ろしい顔を近づけるんじゃねえって」
 んまぁ、レディーに対して失礼な。
ベン「んじゃ、おまえはどうする気なんだよ?」
チコ「もちろん、逃げるに決まってるじゃない」
 あんなものに向かっていくほど、私はばかではない。
ベン「あのなぁ…。あちらさんがそう簡単に逃がしてくれると思っているのかぁ?」
チコ「そんなのやってみなくちゃ分からないわよ、ねぇ、コンさ…ん…?」
コン「ZZZ…」
 う…まだ寝てるぅ~。いいかげん起きてよぉ~。
 あ、起きた。
コン「ほへ…、え、もうごはん?」
 …だめだ、完全にねぼけている…。
コン「へ?」
ベン「な、やっぱ攻撃するしかないだろ?」
チコ「なんでそうなるのよぉー」
船長「…うーむ、飲んでみれば確かに焙じ茶も捨てがたい…」
コン「へ? ん…」
ベン「ここは一発、ドカンと…」
コン「ZZZ…」
船長「食後は、やはりお茶じゃのぉ。コーヒーなど邪道じゃ」
コン「ZZZ…」
ユウ「…あ、あの…」
コン「ZZZ…」
船長「ずずず…。ほーっ…」
ベン「へへへっ、燃えてきたぜ」
ユウ「…あ、あの…」
コン「ZZZ…」
船長「ずずず…」
 ぷるぷるぷるぷる……
 だあぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!
 もう何が何だかさっぱり分からなくなってしまったではないか。
ユウ「…あ、あの…」
 まったく、こいつらときたら…。え…? え…!?
ユウ「…あ、あの…」
チコ「あ、何?」
船長「ずずず…」
ユウ「…あ、あの…が…で…けど…」
チコ「えっ?」
コン「ZZZ…」
ユウ「…え…が…い…ですけど…」
 まわりがうるさくて、何も聞こえん! しかたがない…。
 さぁ、おもいっきり息をすってーっ。
チコ「くぉらぁーっ!! 外野ぁ、うるさいぞぉーーーっ!!」
 とたんに、あたりはしーんとなった。
チコ「はぁはぁ…。で、何だったっけ?」
ユウ「あの…、円盤がいつのまにかいなくなってるんですけど…」
一同「えっ!?」
 みんなが一斉にディスプレイを見る。
 本当だ。確かにいなくなってる。
 じゃあ、さっきまでの騒ぎは何だったんだぁ!?
ベン「ちぇっ、ミサイルは次までおあずけか…」
船長「ううむ、このお茶もうまい!」
コン「ZZZ…」
 まったくぅ…、事態を深刻に考えてたのは私だけなんだろうか?
 けど。まぁ、いっか。みんな無事だったんだし。

 さあ、宇宙船へろへろ号は飛びます。
 今日も、私たちの夢を乗せて。

コン「ZZZ…」
船長「うまいっ!!」

 …もしも、夢があれば…ですが。

END