前に「街なかトレイルのススメ」でいろいろ書きましたが、今回は「登ること」についてです。
「山」に登るためには、山へ行かなければなりません。しかし、「登ること」は、山に行かなくてもできるのです。
もちろん、山に行かないと見ることのできない景色や体験できないものは存在します。以前にも書いたように、大自然の中の方が、素晴らしい景色に出会える機会は多いのでしょう。
ただ多くの場合、山に行くためには、普段の生活に比べて余分な時間とお金の捻出が必要となります。そのため、多くの人にとって、頻繁に山登りに行くことはハードルが少し高いことでもあります。
また、気候や天候の問題もあります。ウェアや装備が進歩しているとはいえ、山登りが可能なタイミングは1年のうちで長くありません。少しでも気持ちよく安全に山に登りたいと思う人は多いのです。
そんなときに思い出してほしいのが「街登り」なのです。
都会に出てみると、多くのビルが立ち並んでいる光景を目にすることができます。郊外であっても、ショッピングセンターなどが威容を誇っていたりします。街中は、平らなようであって、意外に凸凹しているものなのです。
まずは、そんな建物の中に入ってみましょう。普段は何気なくエスカレーターやエレベーターを利用している人も、少し注意して階段を探してみましょう。見つけられればラッキーです。登るために整備された「道」が、そこに開けているのですから。
建物の中は空調が効いていることがほとんどです。ですので、夏の暑い日や冬の寒い日であっても、快適に登ることができます。外で雨が降っていても、この登山道に雨具は必要ありません。
もちろん、びっくりするような景色に出会えることはまずありません。が、注意して見てみるといろいろな発見があります。階段のデザインやレイアウトについて、設計者の意図を考えてみるのも一興です。
都会のビル群であれば、隣のビルへの連絡通路が設置されている場合があります。これは、ちょっとした縦走路です。ビルからビルへ気ままに渡り歩きながら、新しい道を探していきましょう。ルートファインディングの訓練です。
うまく道を選べば、かなりの距離と時間、歩くことができます。道を探して歩いているうちに、おもしろいお店が見つかることもあるかもしれません。
残念ながら、最近の高層ビルでは、安全のためか、非常時にしか階段が解放されないところもあり、そんなときは、登山道が通行止めになっていると思って、あきらめるしかないのですが…。
これが「街登り」です。
オフシーズンの体力作りとして取り入れてもよいですし、日ごろのエクササイズとして実施してもらっても構いません。
ただ、できれば「街登り」そのものを楽しんでもらえると、私は嬉しく思います。
普段何気なく目にするものへ、改めて目を向けること。そんな何気ない景色を楽しむことができること。それは、感性を少し広げることに繋がるのだと思います。
日常も非日常も、きっと同じくらい、すばらしい体験なのです。
了