うーちゃんずとたこやき

for たこ焼きMSG

 とある休日の、何でもない昼下がり。
 ぽかぽかした陽気が、とっても気持ちのよい時間。
「ただいま
 あ、どうやら、おうちの人が帰ってきたようですね。
「あれ、いないのかなぁ。せっかくたこ焼き買ってきたのに…」
 と、誰かをさがしている様子です。
 ぱさっ。
 そして、ダイニングテーブルの上に、まだ温かいたこ焼きの箱をおいて。
 ぱたぱたぱた…。
 スリッパの音を響かせながら、部屋から出ていってしまいましたよ。

 再びしーんと静まり返った部屋の中。
 カチカチと時計の音しか聞こえません。
 かさっ…。
 あれっ? 何でしょうか?
 かさ…ぱこっ。
 おやっ、たこ焼きの箱のふたが小さく開きましたよ。
 そして。
「うんしょっ」
 ぽてっ。
「いてて…」
 おやおや。何と、箱の中からたこ焼きが1個出てきました。
 たこ焼きは、小さな手と足でバランスを取って立ち上がりました。
 そして、あたりをきょろきょろと見回しています。
 太い眉毛とぎょろっとした大きな目。なかなか男前なたこ焼きくんです。

 ちょうどそのころ。
 ダイニングテーブルのすみの方で、まるくなって寝ている小さな小さな女の子たちがいました。
 すーすー寝息を立てて、気持ちよさそうです。
 お昼寝中かな?
 小さなまあるい耳。しっぽのある子もいます。
 そうです。うーちゃんたちです。
 薄桜色の髪の子がうーちゃん。この子がおねえさんです。
 山吹色の髪の子がむーちゃん。そして、若草色の髪の子がふーちゃん。彼女たちが双子のいもうとです。
 あ、今の物音に気付いたのかな? うーちゃんが目を覚ましたようですね。
 もそもそと起きあがって、あたりをきょろきょろ。
 寝ぼけまなこをこすりながらも、てちてちとテーブルの上を歩きはじめました。

 一方、こちらはさっきのたこ焼きくん。
 箱のかげから、しきりにあたりをうかがっていますよ。
 ごくりとつばを飲み込み。勇気を出して一歩踏み出そうとしたその時。
 つんつん。
「うぎゃ~!!」
 いきなり肩(?)をつつかれ、飛び上がっておどろくたこ焼きくん。
 あわてて再び箱のかげに隠れます。
 つついたうーちゃんも、眠そうだった目がまん丸。眠気も吹き飛んじゃったようですね。
 そして、にこっと笑って。
「ねぇねぇ、あそぼ~
 新しいお友達を見つけて、うれしそうなうーちゃんです。
「な、何すんねん。びっくりしたがな」
 たこ焼きくんも、相手が小さな女の子だったのを見て、ばつが悪そうに、ようやく箱のかげから出てきました。
「まぁ、見つかってもうたなら仕方ないな。とりあえずこのことは内緒やで」
 そう言って、人差し指を口に当てます。
 うーちゃんは、こくこくとうなずいています。
「ほんまに分かっとるんかいなぁ…」
 ちょっと不安かな。
「まぁええわ…でもな、今のわいには遊んどる時間はないんや」
 そう言って遠くを見るたこ焼きくん。
 きょとんとした顔のうーちゃん。
「実はな、わいには重大な使命があるんや」
 たこ焼きくんは、そう語りだしました。
「わいは、世の中に正しいたこ焼きを広めなあかんのや。世の中にはな、たこ焼きにしょう油をかけるやつがおる。それだけやあらへん。マヨネーズをかけるっちゅう話まである!」
 こぶしを握りしめます。瞳が燃えています。
「そんなんは邪道や。たこ焼きなんかやあらへん。たこ焼きといえばソース!そして鰹節や!」
 きょとんとした顔でこくこくうなずくうーちゃん。本当に分かってる?
「だからわいは…」
 と、その時。たこ焼きくんの背後に忍びよる黒い影が…。
 さくっ!
「うぎゃ~!!」
 びっくりして走り回るたこ焼きくん。うーちゃんもうれしそうに一緒に走ってます。
「な、何すんねん!」
 たこ焼きくんに怒鳴られて、あわててうーちゃんのかげに隠れたのは…、ふーちゃんですね。
 よく見れば、たこ焼きくんの頭には1本のつまようじが刺さっています。
 おやっ、うーちゃんとふーちゃんの瞳がきらきらと期待に輝いていますよ。
「電波…でる?」
 おそるおそるたずねるふーちゃん。
「出るかーっ!!」
 またびっくりして、うーちゃんの後ろに隠れます。
「まったく、何てことしれくれるんや…」
 そう言って、たこ焼きくんがつまようじを抜こうとした時。
 かぷっ!!
「うぎゃ~!!」
 またまた、びっくりして走り回るたこ焼きくん。
 その背中には、あ、むーちゃんだ。たこ焼きくんにかじりついていますね。
 もちろん、うーちゃんもきゃぁきゃぁ言いながらたこ焼きくんと一緒に走り回っています。
 ふーちゃんは、目をぱちくりさせておろおろ。
 ぽてっ。
 あ、むーちゃんが落ちました。でも、何かまだくわえてますね。
 そして、ぱたりと倒れるたこ焼きくん。
 うーちゃんとふーちゃんが心配そうに近寄ります。
「…あ、あかん、タコがないと力が出へん…」
 弱々しい声でつぶやくたこ焼きくん。
 むーちゃんは、きょとんとした顔で、そのタコをはむはむとかじっています。
 タコってこれのことね。
 たこ焼きくんをつんつんしながら、安否(?)の確認をするうーちゃん。
 そこへ、ダイニングテーブルの向こうへ何かを探しにいっていたふーちゃんが戻ってきました。
「これ…」
 と差し出したのは、なるととカステラの切れ端。…って、何でこんなのが落ちているのですか?
 でも、うーちゃんは真剣な表情で、タコの代わりになるとを埋め込み、カステラで穴をふさぎます。
 最後にぱんぱんぱんと形を整えてできあがり
 すると…。
「ててて…」
 何と、たこ焼きくんが起きあがりました。
 喜ぶうーちゃんとふーちゃん。まだタコをかじっているむーちゃん。
「ほんま助かったで」
 お礼を言うたこ焼きくん。3人(?)と固く握手を交わします。
 そして、お別れです。
「ほな、わいはこれで行くからな」
 たこ焼きくんは、後ろを振り返りつつ、何度も手を振り、ダイニングテーブルを降りて、部屋の外へと旅立っていったのでした。
 たこ焼きくんを見送った後。
 ふぁ~…とあくびをするうーちゃん。あくびは、たちまちむーちゃんとふーちゃんにも伝染しました。ふぁ~。
 ねむいんだよね。
 テーブルのすみでまるくなって、またお昼寝タイム。
 ねむねむ。おやすみなさい。

「あ、ごめんなさい。たこ焼き買ってきてたの忘れてたわ」
 さあ、おうちの人が部屋に戻ってきましたよ。
「さめちゃったかなぁ…」
 そう言ってたこ焼きの箱のふたを開けます。
「あっ。またこの子たちのしわざね」
 視線の先のうーちゃんたちは、まだまるくなってお昼寝中。
「ねぇねぇ、早く来てよ、もうたこ焼き2個なくなっちゃったわよ」

 暖かな日の昼下がり。
 小鳥のさえずりでも聴きながら。
 おいしいたこ焼きはいかがですか?

おしまい むーちゃん