わくわくわくせい

星太(せいた)の宇宙旅行

 今夜も、星太くんはおうちの窓から南の夜空を見上げていました。空にはたくさんの星がきらきらとかがやいていて、とってもきれいです。まるい大きなお月さまも空にうかんでいます。
 次に星太くんは、北の空を見上げました。
「あ、たいへんだ」
 なんと、北の空では長い尾のほうき星が、光のカーテンのようなオーロラにからまって困っています。
 星太くんは窓から飛び出すと、オーロラのところへ行って、からまっていたほうき星を助けてあげました。
「ありがとう、星太くん。お礼に宇宙旅行につれていってあげるよ」
 ほうき星はうれしそうにそう言いました。
「ぼくの背中にのって。準備はいいかい? さあ、出発だ!」
「わーい」
 星太くんの宇宙旅行のはじまりです。

 星太くんをのせたほうき星は、星のいっぱいある夜空を自由自在に飛び回ります。たくさんのきれいな星がまわりできらきらとかがやきます。
 二人は時間のたつのも忘れて、星空を走り回りました。
「お腹がすいたね」
 星太くんのお腹がぐぅーっとなりました。
「じゃあ、なにか食べていこうよ」
 ほうき星はそう言うと、まんまるのお月さまにむかってまっすぐに飛んでいきました。
「あ、ウサギさんだ!」
 さっそく、星太くんは、月でおもちをついているウサギたちをみつけました。
 ウサギたちは交代でぺったんこぺったんことおもちをついています。
「こんにちは。ぼくたちにおもちを少し分けてくれませんか?」
「うん、いいよ」
 ウサギは、こころよく星太とほうき星におもちを分けてくれました。
「ありがとう!」
 二人はお礼を言って、ほかほかのおもちをほおばりました。おもちはとってもあったかくて柔らかで、まるでほっぺたが落っこちちゃうくらいおいしいのです。
「あ、困ったぞ」
 とつぜんウサギの一人が言いました。
「どうしたの?」
 星太くんがたずねると、ウサギはとっても困った顔でこう言いました。
「おもちをつくるのに必要なお水がなくなっちゃたんだ」
「じゃあ、おもちのお礼に、ぼくたちが水をもらってきてあげるよ」
 そう言って、星太くんはほうき星にのってふたたび宇宙旅行に出発しました。

「星太くん、どこへ行こうか?」
 ほうき星が星太くんにたずねます。
「水をもらうなら、やっぱり水星がいいよね」
 そこで二人は水星にむかいました。
 ここはお日さまに近いので、ちょっとあたたかです。
「水星さん、ぼくたちに水を分けてくれませんか?」
「だめだね。お金をもってこないと水はあげられないよ」
 とっても気むずかしそうな声で、水星は答えました。
「どうしてもだめ?」
「どうしてもだめ!」
 そこでしかたなく、星太くんたちは金星にむかいました。
「金星さん、ぼくたちにお金をかしてくれませんか?」
 すると、金星はすまなさそうな声で言いました。
「ごめんなさいね。今は火が消えちゃったから、金を溶かせなくって、お金をつくることができないの。火さえあればいいんだけど」
 そこで、今度は星太くんたちは火星にむかいました。
「火星さん、ぼくたちに火を分けてくれませんか?」
「いいとも。でも火をつけておく木がないと火はもっていけないよ」
 火星はそう言いました。
 そこで、星太くんたちは木星にむかいました。
「木星さん、木を一本くれませんか?」
「ふむ、いいじゃろう。じゃが、新しく木をうえるための土がなくて困っておったんじゃ。土をもってきてくれたら、木をあげようかのう」
 そう言って、木星はにっこりと笑いました。
 そこで、星太くんたちは土星にむかいました。
「土星さん、土を少しもらえませんか?」
「えっ、土を?」
 土星は困ったように言いました。
「うーん、どうしようかなぁ。困ったなぁ。じゃあ、この先にいる神さまがいいって言ったらあげることにするよ」
 こうして、星太くんとほうき星は土星よりも先の神さまたちのいる星へむかいました。

 このあたりは、お日さまから遠いので、ちょっと寒く感じます。
 二人はまず天の神様のいる天王星にむかいました。
 天王さまは、若い男の人です。
「天王さま、土星の土を少しもらってもいいですか?」
「ああ。海の神さまがいいと言えばいいよ」
 そこで星太くんたちは海の神さまのいる海王星にむかいました。
 海王さまは、きれいな女の人です。
「海王さま、土星の土を少しもらってもいいですか?」
「ええ。冥界の神さまがいいと言えばいいわよ」
 冥界とは、死んだ人が行く世界です。そこの神さまはとっても気むずかしくて有名です。星太くんはちょっと心配になりました。
「心配しなくってもだいじょうぶだよ」
 でも、ほうき星はそう言います。
 二人はいよいよ冥界の神さまのいる冥王星にむかいました。
 冥王さまは、まっ黒なひげのこわそうなおじさんです。
「冥王さま、土星の土を少しもらってもいいですか?」
「ふん」
 冥王さまは、星太くんをちらっと見ただけで、なにも言いません。
「冥王さま?」
 星太くんが声をかけても、ひたいに深いしわをよせたまま、やっぱりなにも言いません。
 やっぱりだめなんでしょうか?
「冥王さま」
 そのとき、星太くんのとなりにいたほうき星が、冥王さまに声をかけました。
 冥王さまはびっくりして二人のほうを見ました。
「おお、おまえはほうき星。さいきんすがたを見ないと思っておったが」
「じつは、地球でオーロラにからまっていたのを、この星太くんが助けてくれたんです」
「そうか、そうだったのか。これはすまないことをした。土ならいくらでももっていっていいぞ」
 さっきまでの怖い顔がうそのように、冥王さまは顔いっぱいに笑顔をうかべています。
 じつは、ほうき星のおうちは、ここからもう少しだけ先へ行ったところなのです。だから、ほうき星は冥王さまと友だちだったのです。

「ありがとうございます」
 星太くんとほうき星は、冥王さまにお礼を言って土星に帰りました。
 土星で土を少しもらうと、次に木星に行きました。
 木星で土のかわりに木を一本もらうと、次に火星に行きました。
 火星で木に火をつけてもらうと、次に金星に行きました。
 金星では火をもらってきてくれたお礼にお金をくれたので、そのお金をもって水星に行きました。
 水星ではお金をはらって、水を買いました。
 こうして星太くんとほうき星は、水をもって月に帰ってきたのです。
「わぁ、ありがとう。お礼にもっとおもちを食べていってよ」
 月のウサギたちは大喜びです。ウサギたちの出してくれたおもちを、星太くんとほうき星はおなかいっぱい食べました。
 こうして、星太くんは大満足でおうちに帰ってきたのです。
 今もほうき星は、たまに地球にあそびにきてくれます。
 そして、お月さまでは今日もウサギたちがおいしいおもちをついているのです。

おしまい