ある夏の物語

for Eucalyptus Time

 暑い夏。
 山陽のとある小さな駅。
 わずかにかおる潮風。深い緑に染まった山々。雲一つない澄んだ青空。
 改札を出た私をまず出迎えてくれたのはそんな景色だった。
 ふぅ…ようやく着いたなぁ。
 うーん…。普通電車を乗り継ぎながらの旅だったせいか、体の節々がこわばって感じられる。
 あ、ちょっと遅れたかな?
 私はこの駅でくみさんと待ち合わせをしている。この後、くみさんに車で街を案内してもらう約束を取り付けているのだ。
 なお、報酬はウナギパイ1袋のみ。もちろん、当人にはまだ内緒。ばれたらこわいから…。
 くみさんについての説明はまたの機会として。このあたりに住んでいるのだということだけ書いておく。
 さて。くみさんはもう着いているのかな…?
 あたりを見回しながら駅のコンクリートの階段を下りたとき。
「あなたがよせ鍋さんね」
「のようですわね」
「なのにゃ
 あ、かりんちゃんとゆかりさんとぷりむちゃんだ。
 かりんちゃんとゆかりさんとぷりむちゃんについての説明はまたの機会として。
 彼女たちについて詳しいことが知りたい人は、くみさんのウェブサイトを参照しましょう。きっとその頃には紹介ページも完成しているでしょうから。
「しっかし、たいした格好してないわね。ちゃんとしたお土産期待持ってきたの?」
 う…。かりんちゃん、いきなり厳しいです…。
「食べ物じゃなきゃ許さないにゃ
「大丈夫よ、ぷりむ。きっといっぱい持ってきて下さっているはずだから。ねぇ?」
 ねぇって、ゆかりさん。あの、目がマジなんですけど…。
 あれ? でも、くみさんの姿が見えないようですが…?
「ああ、くみさんはまだ時間があるみたいだからって、その辺ドライブに行きましたよ」
 あ、ゆかりさんありがとう。
「消えたBドライブをさがすにゃ~
「うるさいっ!」
 ピコッ!
「うにゃー…」
 あ、倒れた。あいかわらずのかりんちゃんのチタン製ピコピコハンマー(通称ピコハン)。ぷりむちゃん、大丈夫かー?
「らいむとぷらむも一緒に乗っていったよ。ちなみにみおはお留守番」
 しれっと、かりんちゃん。
 なるほど。どうりで3人の姿も見えないわけだ。
 なお、らいむちゃんとぷらむちゃんとみおちゃんについての説明は…
 …ブロロロロロロ~…!
 突然の耳をつんざく轟音!
 な、なんだ? 雷が落ちた? って、雲一つないか…。
「おーおー、あいかわらず走ってるなぁ」
「でも、あれくらいの音だどまだけっこう遠くですわね」
 と、山の遙か向こうを見つめる2人。
 え。あれ、車の音…なの…?
「知らなかった? 地元じゃ黒い悪魔って、けっこう有名だけど」
「でも、よせ鍋さんは地元じゃないから」
「寝る前にはちゃんと確認するにゃ~
「それは火元やー!」
 ピコッ!
「うにゃー…」
 あ、ぷりむちゃんまた飛んでった…。
 ねぇ、本当に大丈夫?
 と。
 …ブロロロロロロ~…キキーーッ! ゴンッ!!
 え、ゴンって…。
「あ、大丈夫、大丈夫。丈夫さだけが取り柄の車だから」
「丈夫さをとったら何も残りませんわ」
 あのー、すでに見放してません? …この2人が車に乗らなかったのが分かる気がする…。
「復活にゃ~
 おお、ぷりむちゃんも丈夫だなぁ…。
「だったら、お風呂に入れるにゃ~
「それは菖蒲!」
「ここはストレートだにゃ~
「それは勝負!」
「この中の虎を捕まえてくれないかにゃ~
「それは屏風!」
「おみそ汁のだしに…」
「それは昆布!」
「でも、だしはニボシの方が好きだにゃ
「うるさいっ!!」
 ピコッ!
「うにゃー…」
「今日はよく飛びますわね」
 って、ゆかりさん、そんな冷静に…。
「シャフトをカーボン製に変えたからね。ずいぶん軽いよ」
 と、笑顔でピコハンの素振りをするかりんちゃん。
 でも、そんな大きなチタン製のヘッドがついていたら、重さなんてたいして変わらないと思うんですけど…。
「ん、何か言った?」
 い、いえ、何も言ってません…。だから、ピコハンは下ろそうね。
 …ブロロロロロロ~…
 あ、くみさんの車の音、いつの間にか復活している。
「もうすぐ着くと思いますわ」
 とは、ゆかりさんの解説。
 キキキキッーーー!
 直後、交差点の向こうから駅の駐車場へ、黒くて大きな車が爆音とともに現れた。
 …ブロロロロロロ~…
「あ、おまたせっ」
 中から、笑顔のくみさん登場。
「う、うみゅー…ですぅ
「なの~」
 後ろの席で目を回しているのが、らいむちゃんとぷらむちゃんだ。
 …ブロロロロロロ~…
 車はとまっていてもあいかわらずの轟音。目の前で聞くとさらに迫力…。
「でさ、とりあえずエンジン切らない?」
 大声で話すかりんちゃん。でないと、声が聞こえない。
「なんで?」
 とは、くみさん。
「なんでって、うるさくって話できないだろ!」
「ははははは、気にしない気にしない。エンジン音くらい慣れれば大丈夫だって」
「ほとんど汗にゃ~
 え、なんで? 暑いけど…。
「発明王にゃ
「それはエジソンやー!」
 ピコッ!
 あ、でも今回はぷりむちゃんがよけた。というか、こけた。
 なぜここにバナナの皮が…? 古典的だなぁ…。
「バナナはおやじにはいるんですぅ
 とはライムちゃん。きかなかったことにしよう…。
 代わりにかりんちゃんのピコハンがめり込んでいるのは、…黒くて広いボンネット。
「あちゃ…」
 ボンッ!! めらめらめら…
 あ、燃えた…。
「うぎゃ~! 俺の車が~!!」
「ようやく静かになりましたわね」
 いえ、そうにこやかに微笑まれましても…。
「熱いですぅ
「丸焼けなの~」
 おーい、らいむちゃんとぷらむちゃん、大丈夫かー?
「キャンプファイヤーやるにゃ~
 熱い…いや、暑い夏は、まだ終わらない。

おしまい

※この話はフィクションです…よね? 事実に基づいているわけではないのかもしれません。たぶん…。