懐古録

 これは私的な懐古録です。なので、適当に読み流してもらってかまいません。
 さて、日本で最初のウェブサイトができたのは、1992年だそうです。私が初めてインターネット上の世界に触れたのが1998年なので、6年近くがたっていたということになります。
 その頃はまだ企業サイトは少なく(少なくとも目立ってはいませんでした)、多くの個人サイトが思い思いの内容で林立している状況でした。その中身は、日記であったり、評論であったり、イラストであったり。そして、そんなコンテンツを見た後は、各サイトにあるリンク集を気ままにたどるという(すでに死語になっている気がする)ネットサーフィンによって、次々に知らないサイトへ渡り歩いていました。出会った掲示板やチャットで盛り上がったこともあります。そんな中で知り合った方々もたくさんいますし、うちにはそんな交流がきっかけでできたコーナーもあります。
 当時は、タグを手打ちしたりして(ウェブサイト作成ソフトを使っている人も多かったですが)、良くも悪くも手作り感あふれるサイトでした。HTMLでできることが限られていたせいもありますが、今から見れば、びっくりするくらいシンプルなサイトが大半でした。
 この流れが変わってきたのはいつの頃だったでしょうか。
 個人サイトにもましてシンプルだった企業サイトが、デザイナーの手によって徐々に凝ったものへと変わってきた頃です。私は、ネットゲームMMORPGの登場が、大きな影響を与えた気がしています。
 ウェブサイトという個の表現のベースを手作りしていた時代から、企業が提供するプラットフォーム上に作り込まれた世界の中に、初めて人々が活動の主軸を移していった感覚があります。私は足を踏み入れていないので、どんな世界だったのかはよく知りません。ただただ、不思議な感じがしていました。
 その後しばらくたって起こったのが、ブログの流行。これでウェブの間口が一気に拡大した感があります。ブログを中心とした個人のウェブサイトの数が爆発的に増えました。
 それまでは、文章であったり、イラストであったり、何らかの特技を持っているか、そういったサイトに精通していることが、ある種のウェブ上でのステータスになっていた感がありましたが、ブログはそういったものをすべて破壊していきました。
 日常の何でもない(というと言い過ぎかもしれませんが)ことを、知り合いと共有するために書く。コメントとトラックバックというブログに仕掛けられた仕組みが、プラットフォームとしての市民権を得てきた検索サイトとの相性がよかったせいもあるでしょう。とにかく、ウェブサイトの勢力図をあっという間に書き換えた事件であったと思います。そして、従来型の個人のウェブサイトは、割合の上でも絶対数の上でも、数を減らしていったのです。
 しかし、これは、ブログというプラットフォームを利用してはいましたが、再び個人の手にウェブサイトの主導権が戻ってきたと感じられる瞬間でもありました。ほとんどが文章と写真という多様性の低さは、少々残念ではありましたが。
 ただ、そんな時代も長くはありませんでした。そう、mixi、Twitter、Facebookなどへと続いているSNSの隆盛です。再び、企業が提供するより閉じたプラットフォームの中に、人々が活動の主軸を移していったのです。SNSについては、私よりもみなさんが詳しいと思うので、これ以上は触れません(私もSNSに参加していますが、本来想定されている使い方をしていない気がしますし)。
 とまぁ、いろいろと思い出しながら書いてみました。昔の方がよかったなどと言うつもりは全くありません。ただ、ある時期、大手企業と同じ土俵の上で、個人の作ったものが輝いているように見えた時代があったということを、少し懐かしんでいるだけです。
 …ええ、分かっています。これでは公正ではありませんね。
 現在でもウェブ上で活躍している方はたくさんいます。プラットフォーム中心の議論から離れてみればよいのです。YouTube、ニコニコ動画、pixiv、ボーカロイドなどの登場により、表現できる技術の多様性が広がった結果、むしろ昔以上に個々の才能が発揮されやすい時代になっているとも言えます。
 時代が流れても、あくまでも立つステージが変わっただけで、輝くものは輝いているのです。結局、何を懐かしむかの問題であるのが、私の懐古の本質だったりするのですね。