竜騎士伝説

Dragon Knight Saga

終章

 そして、八年の歳月が流れた。
 ナムラ城の王座の前で、一人の青年が頭を垂れていた。
 彼の前には、ベルタナスの国王クワラル三世の姿があった。国王の脇には、王子であるエルオットとダリオット、それに大臣のジェンラウァが控えている。
「では、本当に行くと言うのだな」
 クワラル三世が静かに問うた。
「はい」
 若者が静かに答える。クワラル三世は微笑みを浮かべた。
「分かった。行くがよい、トーツラルア・フィアセンよ」
 トットが顔を上げた。

 あの戦いの後、皆が自分の場所に帰っていった。
 カーラ・スウィームは離れ山に、キリアーノは黒がね連山に、エンターナとシンフィーナのエルフの兄妹は白銀の森に。また、ミシャ・エドバンドはどこへともなく姿を消した。セイナは剣の山のエンゲンツァ神の神殿に戻ったのだろう。
 そして、トットはアルやマリーとともに、ナムラ城の近衛隊に入隊した。
 あの戦いのあと生まれた、ただ一つの夢を実現するために。

 そして再び旅立つ。
 トットは、いつかジュヴナントたちをさがそうと心に決めていた。そして、ようやくその時が訪れたのだ。
 城門を出て振り返る。
『訪れるものに幸福を』
 城門高くに刻まれた言葉が目に入った。
 次にこの城を訪れるのは、いったいいつになるのだろう…。
 行き交う人混みの中で立ち止まって、そんな感傷に包まれていた時だった。
「よう、トット。久しぶりだな。ちょっと見ない間に大きくなって」
 そんな声が聞こえたような気がした。
 振り向いたトットは、ドラゴンとベルタナスの紋章のあるブレストアーマーを身につけた青年を見たような気がした。
「ジュナ!」
 思わずそう叫んだトットは、だが、陽の光の中で人影が幻と消え去るのを見た。
「ジュナ…」
 トットは苦笑を一つ漏らすと、荷物を肩に担ぎ直した。
 そして、もう振り返ることなく道を進む。

 ここにまた新たな冒険が始まる…。

- 竜騎士伝説 完 -